人工物としての社会制度について

なめらかな社会とその敵

 この記事では、自然界の巣作りから市場経済に至るまで、社会制度の形成における生物と環境の関係性を探ります。また、慣習や常識といった概念が、この社会制度の中でどのような役割を果たしているのかを検討します。

人工物としての社会制度について

ご挨拶

みなさんこんにちは!
世界を体験できるメディアをミラーワールドを通じて作っているかっつーです。それを作るための背景や思いなどについてはこちらの記事を参考にしてください!

作るまでの具体的なステップについてはこちらの記事をご参考にしてください。

僕は世界のあらゆる境界線に関心があります。細胞や自己と他者、障害、国境、社会的対立など世界は境界線の積分でできていると考えています。

これらの境界線をテクノロジーによって、なめらかにし、自由自在にすることができれば、人々が生きやすいなめらかな社会が実現できると考えています。

今回の記事の内容

今回の記事では、なめらかな社会とその敵でも言及されている、人工物としての社会制度について説明したいと思います。

みなさん、突然ですが社会制度というとどのようなイメージを持ちますか?たいてい、ルールや規則、規範、マナーなど何かに従うものというイメージを持つかも知れません。

しかしながら、なめらかな社会とその敵の著者である鈴木健さんはそうはいっていません。著者はこのように言っています。

社会制度を何らかの最終形態をもつ単一的な時間感覚を通してみるのではなく、多様な価値観がせめぎ合う複雑化のプロセスとしてみれば、自分が理解し難い存在が現れた時に、屈服すべき存在ではなく、自分が変化し学ぶ機会だと受け止めるだろう。

つまり、社会制度それ自体に対して人々は「従う」というイメージを持つことが多いかも知れませんが、本来ならば、社会制度とは社会制度という環境と人間との相互作用によって、変化しながら学び合う機会として受け取るべきだと言っています。
この記事を読むことによって得られることは、

  • 生命の延長線上として社会制度を捉える視点
  • 人間が社会制度を作る理由
  • 建築物と社会制度との関係性

などです。
経済学部生や政治学生、社会科学、生態学などを学んでいる方にとっては非常に示唆に富んだ内容になっているかと思います。
それではいきましょう。

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人工物としての社会制度の定義

再度、社会制度というと皆さんはどんなイメージを持ちますか?
基本的な定義を辞書で調べるとこのようなものが出てきます。

社会組織のうちで、特に法や慣習によって確立したもの

by Weblio

In sociology, a social system is the patterned network of relationships constituting a coherent whole that exist between individuals, groups, and institutions.

Merriam-webster

基本的な見解としては、人間の行動が定式化されたパターンであり、社会生活を円滑に営むために定められた決まり事のようなものです。
しかし、厳密に決まっているわけではなくやや曖昧な部分があり、変化していくものが社会制度だと言えます。

社会制度の中には、法や慣習によって確立された組織もあります。最も身近なものは、家族です。

家族における結婚の形式や生活様式は正しく社会制度という大きな枠組みに影響されて現在存在する社会組織といえますね。

他にも政治形態や社会保障といったものも社会制度の例です。
これらの社会制度は集団の関心や関係性に応じて自然と形成されていくものです。

本書では、社会制度を人工物としてみなしています。
これがどのようなことを意味しているのかというと、
社会制度が人間によって意図的に作り出され維持されていることを意味します。

自然界に存在する風や太陽活動などの現象とは異なり、人間の活動や関係性に基づいて意図的に形成されるものであるため、社会制度は人工物として理解できます。

この社会制度が人工物であるという視点がどのような点で重要なのかというと、社会制度が単なるルールや規範の集まりではなく、人間の相互作用と行動に影響を与える有機的な要素であることです。
つまり、ここまでをまとめると、

ここまでのまとめ

  • 社会制度は人工的に意図的に作られたものであること
  • 社会制度とは人間や環境同士の相互作用によって行動に影響を与えるものであること。
  • 相互作用によって出来ているので、ただ従うものではないということ

次に、社会制度が人工的な建築物であるということを、アンディークラークによる社会制度の解釈を引用しながら説明したいと思います。

社会制度は人工的な建築物

アンディークラークというサセックス大学で身体性に関する研究を心の哲学や認知科学の観点から行っているイギリスの学者です。

彼の理論によると、人間の思考や認知、心は物理的な環境や社会制度との相互作用を通じて形成されると考えています。心が単に脳みその中にあるのではなく、脳みそ、身体、そして世界からの相互作用から創発するものとみなしています。

これは先程の、社会制度とは人間や環境同士の相互作用よって行動に影響を与えるものだという点と似ていますよね。

より具体的に知りたい方はこちらの本をご参照ください。
現れる存在 脳と身体と世界の再統合 (ハヤカワ文庫NF)
この観点から社会制度も一種の建築物(環境)として捉えることが出来ます。

つまり、社会制度とは私達の身体や脳みその計算能力を助け、補完する機能を持つ「環境」としての役割を果たしています。
言い換えれば、わたしたちは常に体や脳みその中で様々なことを考えていますが、その量が多くなってくると記憶できなかったり、全員で意見が一致しなかったりしますよね?

そんな時に社会制度という環境を作ってあげることで、身体(あるいは脳)の中の計算リソースを外側に押し付けてあげる。そうして社会制度という機能拡張された環境の方で多くの計算を行ってあげることで、全体としての知性を作っているということです。

現れる存在では、人間の行動や認知、意志が脳みそという中央集権的な一つの全能なものによって作られているのではなく、脳みそ、心、身体、環境との相互作用によって形作られていると主張しています。

人間が脳みそだけで判断していないように、社会制度も中央に密集する大きな力(政治や王様)だけで作られるべきではないということですね。全員の相互作用によって変化を感じ取りながら人工的に作られていくものですね。
ここまでをまとめると、

ここまでのまとめ

  • 社会制度というのはシステム(人間)と環境(あるいは建築物であり、社会制度)の間の相互作用の産物であり、全体としての知性や知能、機能を高めるために存在しています。
  • 人間の身体性を外側に押し付けたものが社会制度であると捉えることも出来、社会制度を身体性や心の哲学、認知科学の観点から捉えることも出来ます。

次に自然の中でも同じように建築物(環境)を形作っている事例を紹介します。

自然の中の建築物として事例

個人的なイメージとしての建築は「カタツムリ」なのではないかと思います。
カタツムリの殻は彼らにとってはいわば「建築物」であり、お家ですよね。
その殻がどのようにして出来ているのかというと、カタツムリが接種した食べ物からカタツムリ自身が体から分泌したカルシウムで出来ています。
イメージとしては、自分自身をEnhanceさせるために殻という環境をつくり、そのなかで生活することで外敵から身を守っていたりするわけですね。環境とともに生きているというよりかは、環境自体が自分の体になっているようなイメージですね。

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本書で紹介されている自然の中の建築物としての事例を紹介したいと思います。

ここでは、シロアリの巣づくりのプロセスを一例として取り上げています。

シロアリは、巣作りの際にランダムに泥玉を地面に置き始めます。これらの泥玉には他のシロアリを引き寄せる唾液が含まれており、結果的に次第に柱が形成されます。近くに柱がある場合、それらはお互いに引き寄せ合い、最終的にはアーチ状に結合して複雑な巣の構造を作り出します。

ここで面白いことに気づきます。

シロアリが集団として計画や直接的なコミュニケーションなしに、複雑で大きな構造を生み出しています。

このプロセスはシロアリというシステムが環境を変化させ、その結果として新たな構造が実現されるという構造的カップリングについて記しています。
他にも、ビーバーのダムの事例を紹介したいと思います。

ビーバーは木を伐採し、ダムを作って生活しています。このダムが出来上がることで川の近くで水位が調節され、ビーバー自身の生息環境が改善されます。それだけではありません。周囲の生態系にも影響を与えて流水では生きられないような生物がそのダムの周りで生き始めるようになります。

このようなシロアリやビーバーのようにシステムが環境に影響を与え、またその環境がシステムに対して影響を与え、相互に作用しあっています。

この構造的カップリングが生物と環境の間で、相互に作用し合うプロセスを記しており、自然界の建築物が単なる生物の居住空間を超えた、もっと広い生態系へ役割を果たしていることが分かります。
ここまでをまとめると、

ここまでのまとめ

  • 社会制度や建築物はシステム(人間や身体、あるいはシロアリ、ビーバーなど)の計算リソースを最小限にするために、外側の建築物(機能拡張された環境)を作ることで出来上がっています。
  • その事例としてシロアリの巣作りやビーバーのダムの事例をあげました。
  • 人間が社会制度を作るように、他の生物も同じように巣づくりを行っている事例を紹介しました。

次に市場経済が社会制度としてどのように機能するのかを説明します。

市場経済の役割と社会制度

次は、シロアリやビーバーのダムとは一風変わって市場経済について話したいと思います。

本書では市場経済も一種の社会制度とみなしています。市場も社会制度なのです。市場経済という環境のほうが経済的主体の合理性を誘引していると主張しています。

市場経済は、アンディークラークの理論で述べられた社会制度の一例として、個々の経済的主体(個人)の合理性を促進し、その結果として集合的な知性や効率性を実現しています。

市場経済が、先程のシロアリやビーバーとどのような点で似ているのかを説明すると、市場経済は、個々の主体が自由に行動し、供給と需要によって価格や資源の配分が決定されるシステムです。そのシステム内(環境)での意思決定プロセスは、個々の選択が合理的な結果を生み出すという点で、シロアリの巣作りに似ていますね。

また、場経済は、個々の合理的な選択が集まって全体としての効率性や知性を生み出します。これは、自然界のシロアリの巣作りのように、個々の行動が集合的な構造や機能を生み出すプロセスに似ています。
人間一人一人が合理的なのではなく、市場経済が合理性を要求しているのかも知れません

社会制度と慣習

ここまでで、ある程度社会制度について理解が深まり、生態系や心の哲学、認知科学、経済学、社会科学など様々な観点から解説していきました。


社会制度という大きな枠組み自体が人間やシステムの外側へ追いやられた計算システムであることがわかったと思います。社会制度と人間が全体として知性を高めあっているということです。

人間は知性を外部化して、社会制度を作りそっちの方に計算してもらっているということですね。

最近良く40代、50代くらいの方や講師から「日本は失われた30年を取り戻すために若者が頑張らなければならない。そして慣習や常識を疑え!」といった論調があり、それがベンチャーブームとして話題になっているように思います。

僕自身、シリコンバレーに行き触発された経験もあり世界を変えようという志はあります。昔は慣習や常識なんかすべて取っ払え!と思っていたんですが、最近では慣習や常識というのはある種の合理性があるんだなと思うようになりました。

先程の社会制度の話と関連付けて話すと、社会制度という枠組みの中で生きている我々ですが、その中でさらに生きやすく、摩擦のないように過ごすために生まれたものが慣習や常識なのだと思います。

慣習が形成されるのはいわば社会制度という環境に最適化しているからだとも言えるのではないでしょうか。

社会制度自体がシステムと環境との構造的カップリングによって形成されていると記述しましたが、その構造的カップリングの枠組みの中で最適な行動をしようとすると慣習が生まれ、常識が生まれるのだと思います。

つまり、もしかすると慣習や常識を変えるためには社会制度やもっと大きな枠組みを掴む必要があるのかも知れません。

そうではなくとも、一人ひとりの習慣やinputする内容が変わっていけば徐々に環境自体も変わっていくと思います。

まとめ

今回はなめらかな社会とその敵で言及されている、人工物としての社会制度について解説しました。
簡単に今回の記事の内容をまとめたいと思います。

まとめ

  • 社会制度とは身体や環境との相互作用によって形作られるものである
  • そのため、社会制度は単に屈服したり、従ったりするためのものではく変化の一部として受け入れることが大切
  • システムと環境との相互作用の自然の中の事例としてシロアリとビーバーのダムを説明しました。
  • 市場経済も社会制度の一部であり、市場経済という環境を通じて人々の合理的な意思決定が形成されています。
  • 慣習は社会制度との相互作用を円滑にするための役割を果たしているという点では合理的とも捉えられます。

おすすめ本

現れる存在

ルールに従う

なめらかな社会とその敵 ──PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論 (ちくま学芸文庫)

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